ウェットコーミングと吸入コーミングの比較研究:概略

吸入コーミングは頭シラミの新しい治療法及び採取法で、新たに工夫された吸い口と従来の吸入器を利用する。

目の詰まった櫛を吸い口の開口部にとりつけ、フィルターカップを吸入チューブの結合部に据え付ける。 吸い口が作動すると、髪の一部が開口部に吸い込まれ、櫛が髪の根元に入り込む。 生え際から5センチの部分を丁寧に髪を切断することなく梳ると頭しらみは支えを失い、 空気の流れでフィルターカップに集められる。

この手法が以前に鑑定されたことはなく、また記述も見当たらない。 そこで、我々はこの装置の有効性をここに初めて紹介する。

データと手法

この研究の参加者は地元紙を通じ、また学校選抜などを経て集められた。

この装置を使い慣れた2人の技師が施術を行った。頭しらみ患者は使用手引書に従い治療を受けた。 5回の治療セッションが2週間にわたり行われ、各治療セッションでは成虫及び第3期幼虫が採取されなくなるまで髪を梳いた。

各治療セッション終了後に頭しらみは成長期ごとに区分けし、数をかぞえた。 第3・4・5セッションで成虫が採取されなければその患者は治癒したものとした。

参加者は頭しらみが再発した際には8週間以内に我々に連絡する旨を了承した。

結果

検査を受けた合計105人のうち、27人に頭しらみが見つかり、そのうち23人が研究に参加した。

23人から1467匹の頭しらみ(成虫は167匹)が見つかり、一人あたり平均22.7匹(1匹~118匹までの開きがあった)の 頭しらみがたかっていた。一人を除き全員が女の子で平均年齢は12.3歳(3歳~43歳)、 髪の長さは平均で32.2センチ(3センチ~60センチ)あった。

87%にあたる20人が予定された5回の治療セッションで治癒した。

残りの1人はさらに5回のセッションを経て治癒し、残りの2人は非常に毛量が多く、また髪質も太かったので、 そのうち1人は更に5回のセッションを必要とし、結果治癒した。

髪全体を梳くのに(コーミング)1回あたり5分から15分を要したが、コーミングは頭しらみを検出するのに有効である。

第1治療セッションで、10人の患者が髪全体を1回コーミングするだけですべての孵化した頭しらみを取り除くことができた。一方11人の患者は2回目のコーミングを必要とした。この治療法に深刻な副作用は見受けられなかった。

結論

吸入コーミングは、使い方を熟知した技師の手によれは頭シラミ治療に効果的であり、また頭しらみを採取する非常に有効な手段である。

序論

頭シラミはいたるところでみられ、非常に不快で苦痛をもたらす。 子供も親も頭しらみ感染を恥じ、多くの時間とお金を費やして治療にあたる。

多くの国々では、頭しらみ駆除剤が治療の主流であり、デンマークではマラチオン(Prioderm)とピレトリンが販売されている。

しかし、これらの薬剤に対し頭しらみが耐性を強めてきているとの報告も増え、 その根拠は実際にそれらを用いて治療をしても失敗に終わる例もあることが挙げられる。

薬剤以外の治療法に関する証拠記録は驚くほど少ない。


最近のCochrane reviewを見ると、わずかに1件の研究でしか目の詰まった櫛を用いたコーミング法を検証していない。 この研究ではウェットコーミングとマラチオン含有ローションとを比較し、 コーミングは頭シラミ治療においては駆除剤に比べ著しく効果がなく、 ゆえにウェットコーミングを治療の第一選択肢にするのは不適切だと結論づけている。

そのほかの文献にコーミングの治療効果を検証したものはなくコーミングの(有効性あるいは非有効性を示す) 根拠・証拠は決定打に乏しい。しかし、コーミングはコントロール法としては非常に有効であると述べられている。

吸入コーミング法では吸入器の中で髪を引っ張った状態に保ち、そうすることで髪を切断することなくコーミングする (梳る)。頭しらみはコーミングと吸入の組み合わせによりはがれ、フィルターカップに集められる。

当研究は頭シラミの治療法および採取法における吸入コーミングの有効性を明確にするものである。

データと手順

吸入コーミングはLicesnatcherという新しい装置を用いて行った。

各治療セッションではまず髪全体を3から6つの束にわけてくくる。 髪質にもよるが(長い・短い・太い・細い・巻き毛・ストレート)各束を最高で5分かけて丁寧にコーミングする。 すべての束をコーミングし(1巡目)、頭しらみが見つかった場合はまた順次一束づつコーミングを開始し(2巡目)、 頭しらみが見つからなくなるまで続ける。

この治療セッションは2週間内で3日から4日の間隔をあけて5回繰り返す。 何回目かの治療セッション中でもいったん成虫が見つかれば、再び第1セッションからのやり直しになる。

コーミング1巡目と2巡目とを比較するとLicesnatcherを使用したコーミングの有効性がわかる。 従来の吸入器(1000~1400ワット、標準チューブ、3センチ×3.5センチの接合部搭載)も使用した。

参加者は地元紙の呼びかけで募り、11家族計32人が集まり18人が研究に参加した。 また学校でも選抜検査を行い、Licesnatcherを使用した頭しらみ検出を73人に行ったところ 9人が頭しらみ感染者でそのうち5人が研究に参加した。

装置使用に熟知した2人の技師が各参加者の家庭および我々のオフィスで施術を行った。 1人に要する時間はおよそ30分で、コーミングした後にフィルターを検査し、 頭しらみを成虫および成長第3期幼虫とに区分けした上で、合計施術時間を記録した。 第3・4・5セッションで成虫が採取されなければその参加者は治癒したものとし、 再発した際は研究終了後8週間以内に我々に連絡する旨了承した。

チェック法としてその後も髪をコーミングして頭しらみ発見に努めるようにアドバイスした。

倫理

この研究はヘルシンキ宣言にもとづき、参加者全員が研究参加に同意し、子供の場合は親が同意した。

結論

研究には23人が参加し、合計1467匹(成虫167匹)の頭しらみを検出した。 1人あたり平均22.7匹の頭シラミがたかっていた。 一人をのぞき全員が女性で、平均年齢は12.3歳、平均の髪の長さは32.2センチだった。

表1が示すように、20人が第5セッションで治癒した。 残り3人のうち2人は親子で非常に毛量が多く、また太かったため5回のセッションでは足りず、 母親にはさらにもう1回のセッションを施し、娘は第10セッションで治癒した。 最後の1人は9日間にわたり姿を見せなかったためによるもので、結局第10セッションで治癒した。 その後8週間にわたり再発の報告はなかった。

吸入コーミング法に有害な副作用はなく、頭皮に湿疹や傷、あるいはひっかくことがないかを尋ねたところ、 いずれも報告されなかった。幼児にはこの検査は苦痛だったようであるが、親の協力のもと無事に終了した。

考察

Licesnatcherを用いた吸入コーミングは頭シラミ治療に有効である。

2週間で5回の治療を施すと87%が治癒し、最高でさらに5回の治療を加えれば100%が治癒した。 吸入コーミングを適切に行えば、5分~15分のコーミング1巡で43%がすべての孵化した頭しらみを取り除くことができ、 2巡すれば91%ですべての孵化した頭しらみを除去できた。 駆除剤も含めた他の治療法と比べてもコーミング効果は非常に高く、その効果は薬剤治療と同等であると言える。


ただし、参加者が代表として選ばれていることと、施術が親により行われていることには注意を要する。 あらゆる症例の治療において治療を不利に運ぶ人的要因が常に存在するので治療計画に従うことは大前提である。

3日~4日間隔でセッションを受けていくことが肝要で、さもないと、 新たな卵が産まれてしまいセッションが結果として振り出しに戻ってしまう。 忙しい人にとってはこれが難しいと思われる。コーミングは頭しらみを見つけるには最高な手段と認識されているが、 ドライコーミングはほかの手段に比べて4倍も頭シラミを見つけやすいとされている。 吸入コーミングは事前に特別な準備も予防策もいらない。ただし髪がきれいな状態にあるほうが施術しやすい。 フィルターカップは半透明なのでノミを撒き散らすことなく確認できる。 吸入コーミングを5分~15分かけて行うだけでかなりの頭しらみを除去できる。

実際に第1セッションの吸入コーミング1巡目で43%の参加者からすべての孵化した卵を除去できた。

この装置を使用すれば頭しらみ感染をすぐに診断できることから、 家庭や組織での頭しらみ検査に吸入コーミングが最適であることがわかる。

今回の研究には学校選抜で5人、新聞記事に応えて18人が参加したが、 ほかにも深刻な頭しらみ感染ケースがあると考えられ、また治療失敗例も多いと推察される。 頭しらみ感染は圧倒的に女性に多いと思われる。


また今回の施術を行った技師がこの装置の使用に熟知していたことは重要である。 ゆえに一般の人が施術した場合は今回と同等の結果を想定することはできない。

頭しらみを採取するには吸入コーミングに勝るものはない。

施術後8週間にわたり再発の報告がないことからも研究結果の有効性は明白である。

結論

吸入コーミングは装置使用に熟知した技師の手によれば頭シラミ治療に極めて有効である。 治癒率は薬剤含有製品のそれと同じと思われる。 しかし施術者が(熟知した技師ではなく)家族だった場合はどうなるのか、更に調査が必要である。

吸入コーミングは頭しらみ感染の発見、もしくは採取に極めて有効であり、また実際的な手段である。

デンマーク ネストヴェ病院 Pia H Gustavsen 医学博士

デンマーク ネストヴェ大学病院 Asbjom Hoegholm 医学博士 による実験報告